※この記事は、GAOGAOの自社メディア「CREATOR HUB」に2020年12月9日 に公開されたインタビュー記事を転載したものです。
前編後編の2回に分けてお届けしています。
ベトナムでWebディレクターに。未経験の仕事が、キャリアのプラスになる
―お話を伺っていると、デザイナーとしての誇りを感じます。ベトナムに就職されたとのことですが、どのように求人を探したのか、もう少し詳しく伺えますか?
日本の転職エージェントを使って、海外×ITを条件に仕事を探しました。
私の場合、ベトナムなどの国にこだわっていたわけではありません。むしろ、職種などの仕事内容を重視していました。海外で仕事をするということは、働く場所、使う言語を変えるということです。なので、業界や職種などは変えず、これまでの経歴を生かそうと思っていたんです。
なぜなら、場所も言語も仕事内容もと全てをごっそり変えてしまうと、今後のキャリア形成において良くない影響を及ぼすのではないかと、不安を感じていたからです。今までの経歴、強みを生かして海外就職をすることで、ベトナム後のキャリアにもプラスになると考えました。
―なるほど。では、就職先企業の決め手は何だったのでしょうか?
そのベトナムの拠点が、自社サービスの開発拠点だったからです。
私が就職した会社は、渋谷に本社があるWeb系のサービス会社でした。ほかに受けた会社もWeb系の会社ではあったのですが、海外拠点は受託開発拠点でした。
自社サービスの開発だと、そのサービスに熱意を持って開発している人が多い印象を持っていたので、そういう熱量のある職場で働きたいと思っていたんです。
また、私が就職したベトナム法人の社長は、ベトナムで腰を据えて事業を行っていきたいと考えている方でした。また、ご自身もエンジニア出身だったので、開発などのモノづくりに対してすごく熱心で、誇りを持って仕事をされていたのも印象的でした。
加えて、社長はベトナム人を雇うことのメリットを、人材としてコストパフォーマンスが高いからという視点だけで考えていませんでした。人を育てることにも注力していて、現地ベトナム人エンジニアとエンジニアリングに関する研究チームを作るなど、人を大切にする考え方も魅力的でした。
―魅力的な職場、上司は入社の大きな決め手になりますよね。現地では、どのような業務を任されたのでしょうか?
私が採用された当時、日本人は私と社長の二人だけだったので、なんでもやっていた、というのが正直なところです。(笑)
そんな中でも、メインではディレクション業務を担当していました。
就職した会社には、営業拠点が日本以外にも台湾、韓国、タイ、シンガポールにあったのですが、海外の開発拠点はベトナムだけでした。そのため、自社の多言語機能の改善は、ベトナム拠点に集約されていました。
具体的には、韓国語、簡体、繁体、英語、タイ語です。その要件は日本語で回ってきていたので、英語に翻訳してベトナム人エンジニアに渡す、エンジニアから返ってきたものを確認する、修正依頼を出して改善活動を行う、納品するという一連の作業をディレクションしていました。
あとは、ブリッジ業務も担当していました。日本からの問い合わせは私が受け、それをベトナム人エンジニアに英語で翻訳して説明していました。必要に応じて、英語での説明に加えてワイヤーフレームを書くなど図解もしていましたね。
―デザイナーとしての知見を活かしながら、Webディレクターとして幅広い業務をこなされていたのですね。忙しくも、充実したベトナム生活であったことが想像できます。実際に海外で働いてみて、ポジティヴに感じていることはありますか?
2つあると思っています。
まず1つ目は、今までの延長線ではない仕事にも挑戦できることです。
私の場合、日本でディレクション業務の経験はありましたが、以前は広告寄りのWebページの制作だったため、ベトナムで任された開発系のディレクションは初めてでした。
また、ディレクション業務は組織の成長段階によって求められる業務内容が変わってくるので、今までに任されたことのない業務内容も多く、学ぶことがたくさんありました。加えて、ブリッジ業務も初めて経験させてもらいましたね。
そんな初めての業務を経験することは、最初はもちろん苦労の連続でしたが、今もその経験が活きていることが多く、新しい業務内容にチャレンジできる環境で働けることは、自分のキャリアにとってプラスになると感じています。
そして2つ目は、様々な文化を持つ人と一緒に働けることです。
ベトナムの会社では『社員は家族』という雰囲気が日本よりも大変強く、社内イベントもたくさん行っていました。その中で、おおいに国際交流を楽しめましたね。
また、ベトナム以外の海外拠点のメンバーとも交流できて、とても楽しかったです。例えば、個人的に台湾旅行した時には台湾拠点のメンバーと食事に行くなどしました。
―それでは、逆にネガティブに感じていることはありますか?
尖ったものに触れる機会が少なかったことですかね。
私は美術館が大好きなのですが、ベトナムにはあまりそういった施設がなく、そこが辛かったです。
逆に、東京が良すぎたのかなとも思っています。東京は、世界で見ても文化施設が狭いエリアにたくさん集まっている場所だと感じています。美術館などの大型施設だけでなく、小さな展示会場、ライヴハウスまで数えると膨大な数があります。
ベトナム以外にも、タイやシンガポールに行った時に現地の美術館情報などを検索したのですが、東京に比べると少なかった印象です。
私はデザイナーとして、自分が知らない表現、良いと言われる表現を見続けること、そして、その良し悪しを考え続けることは、デザインを行う上での基礎体力になると思っています。ベトナムの生活も、移住当初は目新しいものがありましたが、美術館のように見られる場所がないのは残念でしたね。
そういう意味で言うと、デザインの基礎体力は日本の方が付けやすいのではないかと考えています。それ以外では、ベトナムでの生活で困ったことはありませんでした。
自分が興味ある文化圏を知る。それを生み出した人々の生活を経験することは、学びとなる
―デザインの源泉が近くにある環境かどうか、という視点は興味深いですね。そんなベトナムでのキャリアを経て思う、今後のキャリア展望についてお聞かせいただけますか?
デザイナーとして、更にプロダクトのデザイン面をリードしていきたいと思っています。そして、日本発海外向け、または海外発日本向けサービスのローンチに、デザイナーとして関わっていきたいと考えています。
デザインは、使う人があって初めて成り立ちます。
そのプロダクトは、どんな人が使うのか、どのような状況で使うのか、そういうことを常に考え、ストックしていくことが、デザインスキルを高めることと同じくらい大切だと思っています。
大学時代、教授にデザイナーはなるよりも続けることの方が難しいと言われたのを思い出します。デザイナーは女性のなり手が多いため、結婚や出産などのライフイベントによって、仕事を離れる方も多いからです。プロとなったこれからも、デザインの力を考え続けていきたいと思っています。
―ありがとうございます。それでは最後に、今後海外に挑戦したいと思っているデザイナーに向けて、一言いただければと思います。合わせて、おススメの英語勉強法も教えてください。
もし海外に興味があるのであれば、早い段階で、自分がどこの文化圏に興味があるのかは知っておいた方がいいと思っています。
まずは、興味がある国に旅行でもいいので行ってみるのはいかがでしょうか?
自分が興味があると感じる文化圏を形成しているのは、そこに暮らす人々が創り出すモノやサービスなどのアウトプットです。
それらは、その国の人が見ているもの、触れているもの、考えていることなどに影響を受けて作られています。その根幹が知りたければ、実際に現地で生活するのが一番ではと思っています。どこが自分に合いそうなのかは、早めに探れるといいですね。
と言うのも、ベトナムに住んでみて感じたことは、その土地で長く活躍できる人というのは、その土地に愛着を持っている人だということだったからです。その国、文化が好きであることは、長く働く上では大切な要素だと感じています。
英語の勉強に関しては、最初にイギリスに行く前はシャドーイングをやっていました。トータルで300時間くらいはやりましたね。そうすると、とりあえず口から英語が出てくるようになりますよ。
あとは、BBCラジオを暇さえあれば聞き流していました。最初は何を言っているのかさっぱり分かりませんでしたが、2分の1倍速で聞くなどして徐々に耳を慣らしていくと、聞こえるようになっていきました。是非、試してみてくださいね。
あとは仲間の存在も大きいですね。一緒に勉強できる仲間がいると、目標達成までめげずに続けられるのでオススメです。
皆さんの海外での新しい挑戦を、心から応援しています!
編集後記
取材中、Marikoさんが一貫して仰っていたのが、ユーザー目線のデザインでした。デザイナーとして、誰が使うのか、どんな状況で使うのか、ユーザー目線に立って徹底的に考え抜くことの大切さを繰り返し語ってくださいました。
また、美術館等に足を運び、貪欲にトレンドのデザイン、アートを吸収し続ける姿勢にも感銘を受けました。加えて、海外で働く中でも現地の人々の生活をよく観察し、現地で受け入れられる、求められるデザインについて考え続けている姿は印象的でした。
そんなMarikoさんのデザインは、きっとユーザーが『つい、何も考えずに、使ってしまう』デザインになっているのだと思います。世界のどこかで、Marikoさんのデザインしたプロダクトに出会える日が、今から楽しみです。
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